『〈怪奇的で不思議なもの〉の人類学』を読むためのブックガイド
12月27日、青土社から『〈怪奇的で不思議なもの」の人類学 妖怪研究の存在論的転回』が出版されました。買ってください。
すごくおしゃれな装丁になっています。かなり好評です。
本書は、2017年から2023年にかけて雑誌などに書いてきた論文を集め、かなり改訂して一冊にまとめたものです。事例を大幅に増補したり、全体として用語法を統一したり、新たな議論(場合によっては反論への応答)を付け加えたりしています。もともと英文の第1章を除けばタイトルは初出のままなので、元の論文情報を見つけることは難しくないでしょう。ですが、論旨とかも少し変えたりしているので、学説史などを書くのでもないかぎり、2024年以降は、初出論文ではなく本書から引用してください。
さて、本書は「第1部 新しい妖怪学」、「第2部 アニミズムからアナロジズムへ」、「第3部 ネット怪談の世界」に分かれています。それぞれ、学史と概念、文化人類学の存在論的転回をベースにした比較研究、そして同時代の妖怪・怪異研究という、僕自身が進めている妖怪に対する3つのアプローチをまとめたものになっています。 自分の書いたものに当てはめると、第1部は前著『妖怪の誕生』や訳書『日本妖怪考』(マイケル・ディラン・フォスター著)と関連が強く、第3部は『謎解き「都市伝説」』(ASIOSと共著)と関係があります。第2部第7章から派生した問題は、最近出た『クィアの民俗学』(辻本侑生、島村恭則編著)で書きました。
その一方で、『〈怪奇的で不思議なもの〉の人類学』は、これまでの日本の妖怪・怪異研究と、多少距離を置いているところがあります。たとえば帯文の「妖怪は本当に存在しないのか?」という文章は、一見すると、何を変なことを言っているのかと思われることでしょう。また、妖怪の本と思って読んでみると、知らない言葉ばかりが使われていて難しかった……という感じになることもあるかもしれません。
そこでここでは、本書を読むにあたって参考になるかもしれないものを紹介してみたいと思います。いわば、本書をよりよくたのしむためのブックガイドです。
ダナ・ハラウェイ「状況に置かれた知」『猿と女とサイボーグ』
関係する章:全体。相対主義に陥らず、素朴実在論にも陥らないために、書くときは常に念頭に置いています。
ブルーノ・ラトゥール「循環する指示」『科学論の実在』
関係する章:全体。ここで書かれているような、どこで物事の連鎖を切断し、両極を作り出しているのかという視点、これも常に念頭に置いています。
伊藤慎吾・氷厘亭氷泉編『列伝体 妖怪学前史』
関係する章:第1章。一般に知られている「近現代の妖怪文化史」をくつがえす内容で、より多層的な妖怪言説の流れを知ることができます。
久保明教『ブルーノ・ラトゥールの取説』
関係する章:第3章。アクターネットワーク理論および主唱者ラトゥールの分かりやすい解説書。『妖怪の誕生』も本書も、アクターネットワーク理論については、基本的にはこの『取説』に従っています。
エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ『食人の形而上学』
関係する章:第4~5章、第9章。パースペクティヴィズムについて説明してくれています。
フィリップ・デスコラ『自然と文化を越えて』
関係する章:第2部全体。アニミズムとアナロジズムについては、この本を熟読しましょう。
フィリップ・デスコラ「形象化のアトリエ」(『交錯する世界 自然と文化の脱構築』所収)
関係する章:第6章。「類推主義」とあるのが、本書の「アナロジズム」に相当。日本語なので、こちらを引用しておけばよかったです。
ロレイン・ダストン、ピーター・ギャリソン『客観性』
関係する章:第8章。自然科学と画像と客観性の関係について。
吉田悠軌『現代怪談考』
関係する章:第10章。2000年代のネット怪談について概観があります。
朝里樹『21世紀日本怪異ガイド100』
関係する章:第9~10章。ネット怪談の具体的な内容について手軽に把握できます。