妖怪と、人類学的な雑記

筑波大学の廣田龍平です。被災地研究・妖怪研究を人類学・民俗学的な方向からやっています。

妖怪辞典・補遺

出版が来年の9月予定だから1年近く前から「補遺」もなにもないとは思うのだが、初稿を提出したあとになって、妖怪についての情報を新発見したりするから困るのである。

どの程度辞書制作についてのネタバレをしていいのかわからないのだが、僕たち院生=下っぱ書き手は、かの有名な怪異妖怪伝承データベースに収められた雑誌記事抜粋を与えられた上で、それを参考にして項目を書くことになっている。ちなみにネット上からでは記事要約しか読めないが、僕たちの手元にあるカードにはちゃんと元記事全文が貼り付けられているので、いちいち雑誌原本を確認しなくてもいいのが非常にありがたい。
とはいえ上記データベースも完全網羅とはいかないわけだし、さらに孫引きも結構多いので、結局いくつかは自分で資料を探すことになる。(探し続けて大幅に締め切りをオーバーしてしまったのは秘密である。)となると個人の力で、ということになるので、「県史の民俗編、民俗学関係雑誌記事、日本随筆大成をローラー作戦で網羅」という方針が明確な上記データベースとは違った、ある種手探りの状態に置かれることになる。
そういうとき参考になるのが、なんとWikipedia日本語版の妖怪記事である。これらの妖怪記事は、知る人ぞ知るのだが、ほとんど一人だけで詳細に書きあげられている。いったい什麼の努力を費やしたのかさっぱり想像もつかないが、とにかくすごく調べている参加者の方がいて、その人のおかげでWikipedia日本語版の妖怪記事はかなり充実しているのだ。もちろん他の市販妖怪事典も参考にするのだが、基本的にWikipediaが元ネタになりうる。
……と言いつつ、まぁこちらにも研究者(の卵?)の矜持というのはあるので、できるだけ参考にしたくないのだが、それでもいくつかはこっそり参考にしてしまっている。

ただしWiki記事は案外孫引きが多いので、結局出典は自分で探すことになる。だいたいの資料は大学図書館や他研究機関の図書館からのコピー、都立図書館などで揃うのだが、どうしてもその資料が見つからないことがある! また、思わぬところでその妖怪について書いてある資料を見つけることもある!

今日も別件で図書館の民俗誌の棚から適当に本を抜き取って読んでいたら、そういうのに出会った。本当に偶然に手に取ったどこかの町誌だったのだが(メモってない。同じ場所に行けばまた読めるし)、そこに「ナンドババサ」という妖怪が載っていたのである。僕は「ナンドババ」を担当していて、編集側から与えられたDBのカードには孫引きが4枚と(しかもいずれも『宮城県史』民俗編の何故か宮城県以外の妖怪も紹介しているページの全く同内容のモノが、ナンバリングだけ違っていて4枚)、そして(宮城県史の孫引き元ではない)一行解説が1枚という情報量の少なさだったので(怪異妖怪伝承データベースの検索結果と同一)、『動物妖怪譚』なり『妖怪事典』なりを参考にしつつ、『岡山文化資料』や『現行全国妖怪辞典』、雑誌『民族』からナンドバジョやナンドバァサの事例も含めて書き込み、DBから漏れている事例がこんなにあるんだぞとドヤ顔をしていたら、この有様である。検索してもネットには現れないのでまだ滅多に知られていないのだろう。
ネロハ」もそうである。埼玉県の伝承でコト八日に来訪するという一つ目の鬼で、こいつについては200字程度で書けと言われたので、与えられたDBカードのみを頼りにとっとと書きあげていた。しかし、いま「ネロハ」で検索してみると、子供のころにネロハが来るぞ〜と脅かされた思い出を書いているブログが見つかるではないか。しかも、どうやら『久喜市史』民俗編(1991)にもネロハについて書いてあるところがあるらしいではないか。しかもうちの大学の図書館にあるではないか……。200字なのでDBカードの情報から作成した以上のことを盛り込むのはもう無理だが、それでもこいつは僕としては大きな見落としだった。アナログな方法で探しだしたナンドババサならともかく、ググってみつかる情報を見落としていたのは、正直言って、恥ずかしい。
ほかにも色々と、今頃になって見つかるものもあるが、「補遺」の続きは、気が向いたらおいおい綴っていくことにする。