アメリカ民俗学の「legend trip」あるいは「肝試し」という概念

アメリカ民俗学でいうlegend trip、「肝試し」と訳しましたが、先ほどの記事でも名前が出ていたビル・エリス(Bill Ellis)がAmerican Folklore: An Encyclopedia (2006、編者はブルンヴァン)にその項目を執筆していたので、訳出します。例によって文献一…

アメリカ民俗学の「直示」という概念

アメリカ民俗学は、「都市伝説」がそうなのですが、日本民俗学でいう「世間話」にあたる説話も「伝説」(legend)に入れています。そうした伝説は、どのようにして人から人へと伝えられるのか? 基本的には口頭であったり文章であったり、言葉を使うものが多…

アメリカ民俗学の「メモレート」という概念

以前から、日本民俗学の「世間話」という概念は、アメリカ民俗学でいうメモレート(memorate)に相当するのではないかということを話していたのですが、2009年に出た『女性の民俗伝承・民俗生活百科事典』(英語)に簡単なmemorateの項目があったので訳して…

超自然概念をめぐる論争③

下の2つの記事の続き(最終回)。 youkai.hatenablog.jp youkai.hatenablog.jp 日本のコンテクストでの超自然概念批判 前回と前々回では、おもに文化人類学(宗教人類学)において、超自然概念がどのような意味で用いられ、どのような観点から普遍的な適用…

超自然概念をめぐる論争②

前回の「超自然概念をめぐる論争①」の続きです。 youkai.hatenablog.jp ある意味、今回が「論争」編かな? 超自然概念の批判 前回の終わりに提示した普遍主義的用法は、自然的/超自然的という存在論的区分が、「それなりのやり方で」(ルース・ベネディクト…

超自然概念をめぐる論争①

妖怪を論じるとき使われることの多い超自然(supernatural)概念。しかし、この概念は本来カトリック神学に由来するものだった。西洋ローカルなこの概念をどれだけ他のコンテクストに広げることができるのか、そもそもできないのかについて、実は(特に人類…

ユキヒラ鍋が陶製からアルミ製になったのはいつか?

「ゆきひら」といえば『食戟のソーマ』の主人公の名字……でもあるが、一般的には調理器具、鍋の一種である。キッチンが使われている日本の家庭ならどこにもあるといっても過言ではない、ポピュラーな道具だ。漢字では行平とも雪平とも書くので、ここではユキ…

近世国学の妖怪論(宣長・守部・隆正)

本居宣長は、上田秋成や平田篤胤とちがって積極的に妖怪的なものを語ろうとはしなかった。いちおう「カミ」の定義のなかで妖怪的なものを列挙してはいるが、付属品的な扱いでしかない。(前に紹介した↓) youkai.hatenablog.jp しかし、門人との問答のなかで…

前期国学の妖怪論

近世国学の妖怪論はどうなっていたのか。平田篤胤が語りすぎたので、一人だけ有名になってしまっているが、前期国学の人々も、当時の多くの知識人と同じように、通りすがりに程度であるが、怪異・妖怪について語っているところはある。ちゃんと調査したわけ…

「妖怪は神経のせい」言説はどこまで遡れるのか?

三遊亭円朝が『真景累ヶ淵』(活字1888)の始めに「幽霊と云うものは無い、全く神経病だと云うことになりましたから、怪談は開化先生方のお嫌いなさる事でございます」と語ったように、「妖怪や怪談なんてものはない!」と否定する言説は明治時代の「文明開化…

国学者は西洋の「天使」(エンゲル)をどう見たか

一昨日、「平田派から柳田國男までの国学に見えたる妖怪論」と称して、現在進行中の某原稿の一部を転載したのだが、そういえば1年ほど前、「異類の会」で発表した時も物集高世を引いていたなあ、と思い出したので、また部分転載してみる。当時の発表タイト…

平田派から柳田國男までの国学に見えたる妖怪論

平田篤胤が今で言うところの「妖怪」に多大な関心を持ち、『鬼神新論』(1805)、『稲生物怪録』(1806)や『仙境異聞』(1822)、『古今妖魅考』(1828)などを著したことは比較的よく知られている。しかし、彼の学統たる平田国学やその周辺の国学者たちも…

『日本妖怪考 百鬼夜行から水木しげるまで』で論じられている作品

本日刊行されましたマイケル・ディラン・フォスター『日本妖怪考 百鬼夜行から水木しげるまで』(森話社)、読んでみたいけど、どんな内容なのかよくわからない……という人たちのために、各章で取り上げられ、論じられている作品について、主なものを挙げてみ…

マイケル・ディラン・フォスター『日本妖怪考 百鬼夜行から水木しげるまで』

2017年9月8日、森話社より翻訳出版予定。税抜き4800円。 妖怪はどこから生まれ、どこに行くのか? 捕まえようとすると、するりと手から逃れていく妖怪たち。日本人はその妖怪をどのように捉え、描き、表象してきたのか。江戸時代に編まれた百科事典や画集から…

くねくねがブームになるまで

ちょっとした備忘録。「洒落怖」や「エニグマ」はそれぞれオカルト板の有名なスレッド。 2000年3月5日ウェブサイト「怪談投稿」に、「分からない方がいい・・」が投稿される。 2001年7月7日洒落怖6の212に「分からない方がいい・・」が出典を明記せず投稿さ…

『現代民俗学研究』第9号に論文が載りました

廣田龍平2017「神なき時代の妖怪学」『現代民俗学研究』9: 43-53 要旨の日本語訳は以下のとおりです。 妖怪は日本民俗学の中心的テーマだという一般的な認識があるにもかかわらず、現実にはほとんどこの分野で妖怪研究はなされていない。これを踏まえて、本…

『日本民俗学』に拙稿の科学民俗学・妖怪論文が載ります

『日本民俗学』最新号の287号pp. 1-35に、拙稿が掲載されます(たぶん10月頭にある日本民俗学会・年会の会場でも手に取ってみることができると思います)。タイトルは「俗信、科学知識、そして俗説――カマイタチ真空説にみる否定論の伝統」です。 要旨を転載…

信念と否定論についての人類学と民俗学

カマイタチ論文に紹介した事例は、字数制限の都合上、必要最小限にとどめてあります。『明治期怪異妖怪記事資料集成』から漏れた妖怪記事、科学啓蒙誌『学びの暁』、明治20年代医学雑誌のカマイタチ論文など、これまで知られていなかった文献が中心になって…

『世間話研究』掲載論文の補足

『世間話研究』第24号(2016年5月)に、「カッパはポセイドンである 近世後期における東西妖怪比較試論」と題する拙論を掲載させていただきました(pp.20-66)。おもに蘭学周辺の文献で、日本の妖怪とヨーロッパの怪物や動物がどのように比較されていたのか…

今のところ最古の「ヌリカベ」文献

九州日日新聞 大正10年1月21日付()は読みにくい部分のフリガナ、(?)は不鮮明で判読が難しかったところです。 木倉(きのくら)の怪 楠田祥 〔一〕塗り壁 肥後の御船と木倉の平野から、東の方宗心原の臺(?)地へ上る坂路の一つに「迫路」と名づけらる…

江戸時代の「天使」と「天狗」

年末年始の調べものの一環としてメモ的に。 キリシタン文書では、天使といえば「あんじょ」、悪魔といえば「天狗」と翻訳されていたが、蘭学隆盛期に入ると、天使といえば「天狗」ということになってしまった。宗教性が除去されすぎた結果、形態論的な比較し…

『怪異の風景学』評(全面改訂01/17/2015)

佐々木高弘の『怪異の風景学 妖怪文化の民俗地理』(古今書院、2009)(以下『風景』)は、四国のクビナシウマ(首切れ馬)、『千と千尋の神隠し』、そして近代的な廃墟などを地理学的に論じた本である。妖怪研究家であり『江戸の妖怪革命』(河出書房新社、…

リッカルド・カポフェッロ『経験論的な驚異 幻想文学の歴史化1660-1760』

ちょっと気になる本があったので、その序論だけを翻訳してみました。 Riccardo Capoferro, 2011, Empirical wonder: Historicizing the fantastic, 1660-1760. 幽霊や怪物が経験的なものではなくなっていく過程、というか経験的なものとそうでないものとの分…

鎌鼬=真空説の初出

鎌鼬の正体が真空であるという説の初出はいつか? 今年の夏に出た別冊宝島の『日本の妖怪』(小松和彦・飯倉義之監修)では「昭和初期」と書かれている(p.70)。飯倉義之さんの2010年の論文「鎌鼬存疑」(『妖怪文化の伝統と創造』所収)では、井上円了の『妖…

妖怪論文が掲載されました・ウェブ上に公開しました

すでに2か月前の話になりますが、『現代民俗学研究』という雑誌の第6号に僕の論文が載りました。 タイトルは「妖怪の、一つではない複数の存在論―妖怪研究における存在論的前提についての批判的検討―」で、113-128ページに掲載されています。 冒頭の英文要旨…

「びしゃがつく」の出典

まえおき 柳田国男『妖怪談義』の「妖怪名彙」には、後に有名になる多くの妖怪が掲載されているが、柳田はそれぞれの妖怪のデータが何に由来するのか、必ずしも明記しなかった。小松和彦はこの点を問題視し、出典を明らかにしていくことによって柳田がどのよ…

日本怪異妖怪大事典「廣田龍平」担当項目の補遺1/5 インマオ、遠州七不思議、えんのこ、閻魔大王、置行堀、応声虫、蛙石、鐘の怪異、川ミサキ、鬼子母神、コソコソ岩、狛犬、鹿石、七人塚、十二神様

この記事がどういうものかについてはhttp://d.hatena.ne.jp/ryhrt/20130827/1377587908を見てください。原則として『日本怪異妖怪大事典』を手元に置いて読んでください。1. いんまお【犬魔王】p. 52「犬のような姿をした奄美群島の妖怪」。○ 「犬魔王」とい…

日本怪異妖怪大事典「廣田龍平」担当項目の補遺5/5 もうみ、モグラ、門助婆、問答石、やかん転がし、やかんづる、やざいどん、山あらし、山芋鰻、山猫、山ミサキ、ヤモリ、雪降り入道、雪ん坊、笑い女

この記事がどういうものかについてはhttp://d.hatena.ne.jp/ryhrt/20130827/1377587908を見てください。原則として『日本怪異妖怪大事典』を手元に置いて読んでください。61. もうみp. 545「青森県の八甲田山や岩木山に住んでいるとされた、恐ろしい化け物」…

日本怪異妖怪大事典「廣田龍平」担当項目の補遺 前説

少し前に『日本怪異妖怪大事典』がようやく出版社から届いたということで、自分の執筆した75の怪異妖怪項目について、書くときに参考にしたものや、書ききれなかったことについての追加説明みたいなのを書いてみることにする。説明文に書いてあるが事例に…

日本怪異妖怪大事典「廣田龍平」担当項目の補遺4/5 日和坊、ひるま坊主、風来ミサキ、袋下げ、鳳凰、棒振り、頬撫で、ほご釣り、法螺貝、枕小僧、ミサキ風、三つ目入道、ミミズ、宮ホウホウ、ムササビ

この記事がどういうものかについてはhttp://d.hatena.ne.jp/ryhrt/20130827/1377587908を見てください。原則として『日本怪異妖怪大事典』を手元に置いて読んでください。46. ひよりぼう【日和坊】p. 479-80「常陸の国の深山にいるという妖怪」。○ この項目…